アウトドアで深める防災知識
地震や台風といった自然災害の多い日本で生きる上で、防災知識を持つことは必須になっているといっても過言ではありません。
そして、普段から防災に役立つ経験や知識を積み重ねるには、キャンプなどのアウトドア知識が役立つことが多くあります。
キャンプなどを経験しておくことで、たき火・野外料理・水の調達など、普段できない経験ができます。
また、ハイキングや登山は、交通機関がマヒした中で、職場から自宅まで帰還するための行動力を身に着ける機会にもなるでしょう。
登山やキャンプ・車中泊などの知識も、少し調べればいろいろと見つかります。
また、アウトドアグッズは、非常時に役立つものも多いので、備蓄品の一部としても活用できます。
テントは、小型の自立式のものであれば、避難所内でのプライバシーの確保にも使えますし、寝袋は、限られたスペースで体温を保持して眠るのに最適です。
キャンプ場の整備などが進んで、インフラが整っているため、アウトドア活動であっても特別な経験や知恵はあまり必要ありませんが、野外活動を経験しておくと、インフラの乏しい状況下で必要なものや取るべき行動を知ることができるでしょう。
災害が、すぐ避難生活につながるわけではありませんが、停電や断水といったことも起こりえます。
野外活動の経験は、インフラが停止した中で、どのような行動が必要かをシミュレーションする機会になるのではないでしょうか。

緊急時に必ず持ち出すもの
各家庭で多少の違いはあるかもしれませんが、火事などの災害時に持ち出すものと地震などの広域災害時に持ち出すものは少し変わってきますが、共通するものとしては以下のものが必需品といえるでしょう。
現金・小銭 |
家の鍵・車の鍵、運転免許証 |
キャッシュカード・クレジットカード |
通帳、印鑑、年金手帳、パスポート、地震火災保険証、母子手帳 |
携帯電話 |
健康保険証、診察券(患者番号が分かるもの) |
常備薬・お薬手帳、救急セット |
メガネ・コンタクトレンズ |
連絡先リスト・家族の写真 |
通帳、印鑑、年金手帳、パスポート、地震火災保険証、母子手帳 |
しかし、短期の避難であれば、通帳などの金融資産は、耐火金庫などを利用して自宅で保管する方が安全です。
もし通帳などが失ったとしても、身分証明ができれば銀行預金の一部を引き出すことができます。
避難所内では、多くの人が出入りする関係で盗難などが発生することも報告されているので、余分の現金などは持ち込まない方がいいでしょう。
すぐに役立つ備蓄食品
インフラが停止したときには、料理などの負担が少ないものを備蓄しておくと便利です。
とはいえ、備蓄用の食品類は、日持ちがするように作られているため、比較的美味しいというものでも日常的に食べているものよりは味が落ちるものが少なくありません。
レトルト食品を備蓄しているという方は多いですが、これも数種類を組み合わせることが前提になりますので、それだけで済ませるというわけにはいきません。
その点、温めるだけで、すぐ食べられる冷凍食品は、自宅待機や災害初期のあわただしい中でも比較的簡単に用意できるので便利です。
停電などで冷蔵できない状況でも、冷凍食品を冷却材として使用しつつ、順次消費していけば無駄がありません。
備蓄用の食品は、比較的高価なものが多いので、通常の食品を多めにストックし、順次消費しながら使いまわしていく「ローリングストック」が有効です。
また、普段食べているものより高価な缶詰などを備蓄品としておけば、切羽詰まった状況でもちょっとしたゆとりを与えてくれるかもしれません。
水の備蓄もある程度は確保しておくべきです。
最近のウォーターサーバーは、ペットボトルのミネラルウォーターよりも保管場所が少なくて済むものもあります。
ほとんどのウォーターサーバーは、停電時でも温度調節ができないだけで、水の利用は可能ですし、定期契約であれば、常に新しい水がストックされる状態が維持できます。
マンションなどでは、貯水タンクに水を貯めてから各家庭に分配されるので、断水時でも水が使えるように錯覚する人もいますが、貯水タンクの容量はわずかなものなので、すぐ使えなくなります。
水や食品のストックを考えるよりも、避難先を確保することを優先しましょう。
サバイバル用品の浄水フィルターやサバイバルキットを勧める人もいますが、都市部では全く役立つ機会がないと思った方がいいでしょう。
山間部などの渓流河川流域に住んでいるのでなければ、自然の水などは利用できません。
あるとすれば、数日たった備蓄タンクの水を煮沸できない状況で飲む場合ぐらいではないでしょうか?
実際のキャンプなどでも、使う機会はほぼないので、知識として使い方を知っておく程度でいいでしょう。
一次避難(災害時に身の安全を確保する)
災害発生直後に自分の身の安全を確保し、命を守る状況を、「一次避難」と言います。
その後、状況が落ち着くまでの避難生活が「二次避難」ということになります。
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ある日、突然襲ってくる災害。
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その時、自宅にいるか、外出しているか。
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起きているか、寝ているか。
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家族は一緒か、別々か。
どのような状況であれ重要なことは、“まずは自分の身を守る”ことです。
起こりうる災害の種類や被災状況は、居住地域、家屋の種類、家族構成などによって異なるので、何が起こりうるかをシミュレーションしておくことも重要です。
- 頭を保護し、大きな家具から離れる
- 丈夫な机の下など、安全な場所に逃げ込む
- あわてて外へ飛び出さない
- ガスや暖房器具などは可能であれば消す
(身を守ることが第一なので、無理はしない) - 扉を開けて避難路を確保する
(地震で建物がゆがみ、開かなくなることがあります)
大切なことなのでもう一度言います。
最優先は、「あわてずに、身の安全を確保」することです。
一刻を争う事態に遭遇したとき、判断に迷わないよう、それぞれの状況に合わせた行動指針を決めておくことも重要です。
一次避難時に役立つアイテム
- ホイッスル
- 自力で脱出できない場所に閉じ込められてしまったとき、少しでも早く気付いてもらうにはホイッスルが役立ちます。
大声で叫ぶより体力を消耗しません。
災害時は、ヘリコプターや重機の音で、人の声はかき消されてしまいます。
- ヘッドランプ、小型ハンドライト、ランタン
- 避難時に明かりは欠かせません。
夜間はもちろん、昼であっても場所によっては停電により暗い中での避難を余儀なくされます。
明かりは常に持ち歩きたいもの。懐中電灯より、両手が自由になるヘッドランプがおすすめです。
また、太陽光によって発電・充電できる小型ハンドライトは、電池が補充できるので安心です。
- ソーラーパワー・バッテリーチャージャー
- 太陽光さえあれば、携帯電話やスマートフォンの充電が行えるため、電源が確保できない状況下で役立ちます。
アウトドア・アクティビティでは長期縦走登山やロングツーリング時にもあると便利なアイテムです。
ほかにも、防災に役立つハンドブックや体温の低下を防ぐエマージェンシーブランケット、情報を収集するのラジオ、突然の雨から身を守るレインウェアなどは。
一時避難に役立つアウトドア
災害は、「慣れない事態」なので、いざ出くわした時、大人も子どもも慌ててしまいます。
「慣れないこと」にうまく対処できないのは当たり前です。
ハイキングやキャンプなど、普段の遊びに取り入れて、いざというときに役立てましょう。
サイクリング・ジョギング
避難する際には、バイクはある程度自由がききますが、自動車は渋滞などでかえって避難が遅れる可能性があります。
また、内燃機関に頼っていると、燃料の補給ができない状況も考えられるので、徒歩または自転車での避難が効率的になる場合もあります。
低山へのハイキング
日本の大部分の地域では、生活エリアの道路のほとんどが舗装されています。
普段、舗装路しか歩いたことがない場合は、でこぼこ道がうまく歩けず、足をくじいたり、ケガをすることがあります。
ハイキングに出かけ、がれきを乗り越えたりできるよう、山道を歩いたりして、不整地を歩くことに慣れておきましょう。
足元をしっかりサポートする靴も慣らしておく必要があります。
暗闇に慣れておく
暗闇が苦手なら、暗闇に慣れておくことも大切です。
ヘッドランプやろうそくの明かりのもとで過ごすなど、キャンプなどを通じて、楽しみながら経験を積み重ねていきましょう。
また、ライトなど、停電時に必要になるものをすぐに取り出せるよう、日頃から所定の位置に置くことも大切です。
暗闇の中でライトを取りに行くことにチャレンジしてみるのも面白いかもしれません。
二次避難(ライフライン復旧までの避難生活)
災害発生直後の「一次避難」で身の安全を確保した後、ライフラインが復旧するまでの間が「二次避難」となります。
避難所や野外で生活する際に重要なポイントをご紹介します。
避難する場所
災害により自宅や職場に損壊が生じた場合や、河川の氾濫・土石流・津波などの危険が迫っている場合は、適切な場所へ避難する必要があります。
避難所に関する情報は、自治体が、インターネットやパンフレットなどで公表しています。
国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」
このサイトでは、日本中のハザードマップを閲覧することができ、身の回りでどんな災害が起こりえるのか、調べることができます。
ハザードマップを参考に、起こりうる災害と危険を想定して、地域や家族構成を考慮して避難経路と避難場所を確認しておきましょう。
ハザードマップポータルサイト (国土交通省)
避難所には、火災の延焼などの危険から身を守るための避難場所と、避難生活ができる収容避難所があります。
自宅や職場の近くには、「どこに」「どのような」の避難所があるかを、あらかじめ調べておきましょう。
また、安全に避難所にたどり着くために、土砂崩れが起きそうな場所や、ブロック塀などの危険な経路は避けるなどの注意も必要です。
実際に歩いて避難経路や周囲の状況を確認しておきましょう。
避難生活での注意点
学校や公民館などの収容避難所での避難生活の様子が、テレビなどでよく放映されます。
しかし、状況によっては、収容避難所での生活を選べないことや、空きがなく避難所に入りたくても入れないことがあります。
そのようなときは、テントや車中泊という選択肢があると、少なくとも眠る場所は確保でき、気持ちに余裕が生じます。
避難所暮らしのよい点は、食料や日用品の配給を受けやすいこと、情報を得やすいことです。
一方、テント生活や車中泊の場合は、プライベート空間を確保できるという点が挙げられます。
自宅介護している家族がいたり、ペットがいる家庭は、避難所生活を選び難い場合もあります。
自分の状況に合わせた二次避難のスタイルを想定し、食料の備蓄やテントなどを準備しておくと安心です。
避難所生活者以外にも支援物資を配るかどうかは、避難所運営者の裁量によることが多いようです。
テント生活者や在宅避難者は、同じ状況を選んだ人達とグループを組むことで、支援物資配布先として、自衛隊・自治体・ボランティア団体に認識されるようにもなります。
避難生活では、早めに周囲の人たちとの協力体制を築くことも重要です。
避難生活で役立つアウトドアアイテム
どのような避難生活を送るにせよ、しっかりと睡眠をとり、健康を維持し、日々の活力を得ることが、非日常を乗り越える上でとても大切です。
十分な睡眠をとるために役立つアウトドア用品を紹介します。
寝袋とマット
アウトドアで使う寝袋とマットは、布団に比べて軽量・コンパクトなので、持ち運びが楽でスペースもとりません。
特に、冬の避難生活では、地面からの冷気を遮断しないと寒くて眠れません。
冬山などの過酷な環境下で睡眠がとれることを目的としているマットは、避難所でも活躍します。
クッションとしての役割を果たしますので、体育館や教室のような硬い床では、とても過ごしやすくなります。
しかし、アウトドア用のマットはテントに合わせて必要最低限の大きさしかないので、慣れるまでは少し窮屈で「快眠」とまではいかないかもしれません。
キャンプに行ったり、家で使ってみて、普段から少しずつ慣れておきましょう。
テント・タープの活用方法
テントは、就寝スペース以外に、着替えや授乳スペースとしても利用でき、プライベートな空間を確保するためにも活用できます。
また、子供たちを一ヶ所に集めることで、安全確保やメンタルサポートの役目を果たすこともできます。
災害時に限ったことではありませんが、子どもたちが安心して遊んだり、勉強したりできる場所を確保することは、保護者の負担を軽減することにもつながります。
季節や被災状況に応じて、屋内にテントやタープを張って生活するというアイデアもあります。
物資の受け取りや情報交換など収容避難所の利点はそのままに、プライベート空間をしっかり確保できます。
ただし、体育館や公民館などは、床からの冷えが厳しいので、マットや段ボールを敷いて断熱するなどの工夫が必要です。
本格的なテントだけでなく、日除け用のポップアップテントなども活用できます。
アウトドアにおける、テント生活の技と知恵
水のたまりにくい場所を選ぶ
日よけ、雨よけのために、木の下も選択肢のひとつです。ただし、落雷の危険がある場所は避けてください。
入り口は風下側に
入り口が風上を向いていると、突風で風をはらみ、飛ばされる危険があります。
張り綱を必ず張る
強風の場合などは、張り綱を張らないと大人2人が中にいても飛ばされることがあります。
すのこやパレットを利用する
床を上げることで、浸水・湿気・冷えを抑えられます。
タープを張って生活空間を広げる
タープがなければブルーシートで代用してもよいでしょう。
雨水は生活用水に
タープにたまった水は捨てずに利用しましょう。
生活テントと物資テントを分ける
テントの数に余裕があれば、用途で分けると暮らしやすくなります。
避難所のひとつとして認めてもらう
行政に働きかけます。認められれば支援物資や情報を受けやすくなります。
キャンプのすすめ
テントを被災時に活用するためには、普段から使い慣れておくことが大切です。テントの購入まで踏み切れない場合は、キャンプイベントなどで、テント生活を体験してみることをおすすめします。
キャンプを楽しみながら、いざというときに役立つ技術を身につけましょう。
水害への備え
近年、ヒートアイランド現象などによるゲリラ豪雨が増え、都市部でも排水能力を超える水が一気に河川や下水道へ流れ込んで溢れる「都市型洪水」など、身近な水害の危険性が高まっています。
ハザードマップは、そういった状況を考慮したもの公開されています。
自分の周囲や避難経路にそう言った場所がないか、あらかじめ確認しておきましょう。
また、いざというときにはフローティングベストになる防災用品は、津波や洪水などの水害に備えることができます。
河川や海などのレジャーでは水難事故防止のために、子供ばかりでなく大人もフローティングベストなどを着用することが多くなっています。
安全のために、一人1着ずつ用意しておくといいでしょう。
流水で浮力を確保するためには、最低でも体重の10%以上の浮力を持ったものが必要だと言われています。