ハイターやブリーチなどの塩素系漂白剤がアルコール消毒剤の代用品に向かない理由

公開: 2020/02/01 9:00

ウイルス除去などの除菌・殺菌効果を求める場合には、アルコール消毒剤が一般的です。
しかし、ウイルス性の疾病が蔓延した場合には、アルコール消毒剤の買い占めなどで品薄になることがあります。そこで代替品として塩素系消毒剤を利用することも可能です。

ハイターやブリーチなどの塩素系漂白剤を利用するのは、手軽で家庭でも手に入りやすいという理由でよく用いられる方法ですが、これには致命的な欠陥があります。
これらの塩素系漂白剤の成分表示を見ると「次亜塩素酸ナトリウム」が主成分として記載されています。

この「次亜塩素酸ナトリウム」は、家庭で手軽に利用できる反面、

  • 塩素濃度があまり高くない
  • 塩素が飛びやすい

といった特徴があるのです。

もちろん、これは食器や衣類などの漂白といった目的では欠点ではなく、むしろ長所と言ってもいいでしょう。
塩素濃度については漂白に使うには十分な濃度を持っていますし、塩素が飛びやすいということは「残留塩素」が残りにくいということでもあります。

しかし、ウイルスの除菌・殺菌といった目的には致命的な欠陥になります。
なぜなら、殺菌に必要な塩素濃度を確保するのには大量に必要になり、すぐに使えなくなることを意味するからです。
また、強いアルカリ性で、皮膚表面に影響を与えるので、スマホの指紋認証などが通りにくくなる場合もあります。

手指の除菌殺菌に使用するなら、0.02%〜0.1%程度の塩素濃度の液中に手を15秒〜30秒程度は浸す必要があります。
つまり、バケツや洗面器などに用意した消毒液が必要だということです。

ここで次亜塩素酸ナトリウムの「塩素が飛びやすい」という欠点が問題になります。
塩素濃度を保つためには密封容器に保管する必要がありますが、そうすると手を浸すということが難しくなります。

これが「ハイターやブリーチなどの塩素系漂白剤がアルコール消毒剤の代用品に向かない理由」です。

ではどうすればいいのか。
私のお勧めは、「ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム」です。

この「ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム」の特徴は、

  • 塩素濃度が約60%と高濃度
  • 固形だが、水に溶けやすい
  • 液性は中性
  • 塩素臭が少ない
  • 塩素濃度が飛びにくい

というものです。

高濃度なのでバケツなどに大量に作ることができる上、錠剤や顆粒で販売されていて保管しやすい
また、中性なので人体への影響も少ないというメリットがあります。
そして、塩素臭が少ないのであの匂いが嫌いな人にも使いやすいということです。

「ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム」は、一般向けの商品としては、錠剤タイプの哺乳瓶洗浄剤やハイプ洗浄剤などに使われています。
赤ちゃんの哺乳瓶の洗浄にも使われるくらい安全性の高いものですから、子供や女性の肌にも安心して使えるのではないでしょうか。

哺乳瓶用などは非常に小さな錠剤なので、大量に使用するには向きませんが、同じ成分の製品そして、「風呂水清浄剤」があります。

約3g程度の錠剤として販売されているので、3g x 60% = 1.8g の塩素を含んでいますから、0.1%の塩素消毒液を作るには、水1.8リットルに1錠。
0.02%の塩素消毒液なら、水9リットルに1錠投入すればいいということになります。

塩素が飛びにくいという特徴があるとはいえ、放置しておけば徐々に塩素の濃度は低くなっていくので、ポリタンクなどで作って洗面器などに移して使用するというイメージになると思います。

ハウスクリーニングなどでカビ取りなどに使用する業務用の製品もあるので、大量に使うならそういった製品を購入してもいいでしょう。

ただし、塩素には漂白作用と汚れ(有機物)による消毒作用の低下があるので注意が必要です。

汚れ(有機物)による消毒作用の低下とは、塩素の消毒機能がどのように働くかに秘密があります。
塩素は有機物と反応して強力な酸化を起こします。
この酸化作用が消毒機能として働くわけです。
ですから、塩素系消毒剤は、目立つ汚れを落としてから行う方が効果的です。



以下に塩素製剤に使われる成分の特徴を挙げておきます。

塩素剤の種類

塩素剤には無機系と有機系の2種類がありますが、
無機系と有機系の大きな違いは2つあります。

1つは、水に溶かした時の塩素濃度の飛びやすさです。
有機系の方が、格段に飛びにくく安定しています

もう1つは、塩素臭です。
有機系の方が、塩素臭が低くなります

では、まず無期系から、

次亜塩素酸ナトリウム

先にお伝えした通り、ほとんどの塩素系漂白剤の主成分として使われているのが、この次亜塩素酸ナトリウムです。

次亜塩素酸ナトリウムの特徴としては、

  • 液体である。
  • 塩素濃度が高い物でも12%程度。
  • 塩素が飛びやすい。
  • 液性はアルカリ性。

などがあります。

液体の塩素剤は、この次亜塩素酸ナトリウムだけで、他は固形です。

固形の塩素剤は、水で溶かして液体にしてから使うのですが、次亜塩素酸ナトリウムは、最初から液体の状態です。
この塩素系では唯一の「液体」という特徴が、製品化するのには非常に都合が良いわけですが、原料用の次亜塩素酸ナトリウムは、濃度が高いもので12%です。
そして、メーカーでは、濃度12%の次亜塩素酸ナトリウムに界面活性剤や添加物などを加えて、漂白剤やカビ取り剤を作ります。
ですから、塩素濃度は12%以下になってしまいます。

一般的な製品の濃度は、

キッチン用漂白剤、衣類用漂白剤で5%前後
カビ取り剤で0.5%程度
と言うことになります。

製品にすることで、さらに低くなった塩素濃度を、少しでも長く保たせる工夫として、製品の容器は、光が入りにくいよう色をつけています。
漂白剤の容器が、緑色だったり、カビ取り剤のスプレーボトルが乳白色だったりするのは、そのためです。

次亜塩素酸ナトリウムの用途としては、漂白剤以外にも、水道水の消毒や公衆浴場のお風呂の水の消毒として使われています。


次亜塩素酸カルシウム

基材として使われるのが、ナトリウムかカルシウムかと言う違いだけに見えますが、大きく違う点が3つあります。

  1. 次亜塩素酸ナトリウムが液体なのに対して、次亜塩素酸カルシウムは固形。
  2. 次亜塩素酸ナトリウムがアルカリ性なのに対して、次亜塩素酸カルシウムは中性。
  3. 次亜塩素酸ナトリウムは塩素濃度が高いものでも12%なの対して、次亜塩素酸カルシウムは70%。

という点です。

一般に手に入り易い製品としては「さらし粉」です。

次亜塩素酸カルシウムの特徴としては、

  • 固形である。
  • 塩素濃度が70%程度。
  • 塩素が飛びやすい。
  • 液性は中性。
  • などがあります。

デメリットとしては、

塩素剤自体の塩素濃度は高いのですが、水に溶かしてからの塩素濃度の持ちがよくありません。
水に溶かしたとたん、一気に塩素濃度上がり、その後急降下します。

そして、水に完全には溶けないことです。
次亜塩素酸カルシウムは、水酸化カルシウムに塩素を加えてつくっているのですが、そのカルシウム分が溶け残るのです。

これらのデメリットがあるため、最近は、使われる場面が少なくなりました。

年配の方ならわかると思いますが、昔は、プールの消毒剤として直接プールに投げ込んで使われてました。
プールの底の白い丸い玉を潜って拾った記憶はありませんか?

あれが次亜塩素酸カルシウムです。

今では、その用途としても使われることがなくなりました。
洗浄剤や漂白剤として製品化しているものも、おそらくないでしょう。


トリクロロイソシアヌル酸

トリクロロイソシアヌル酸の特徴としては、

  • 非常に溶けにくい固形塩素剤
  • 有効塩素が約90%
  • 酸性

の3つがあげられます。

溶けにくいのに塩素濃度が非常に高い特徴から、次亜塩素酸カルシウムに変わってプールの消毒剤として使われるようになりました。


ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム

ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの特徴としては、

  • 塩素濃度は約60%程度。
  • 水に溶けやすい。
  • 液性が中性。

があげられます。

さらに、そこに有機系塩素剤の特徴である、

  • 塩素臭の低さ
  • 塩素濃度が飛びにくい

が加わります。

「溶けやすくて塩素濃度が飛びにくい」だけでも、非常に魅力的なのですが、さらに中性なのです。

中性ということは、素材を傷めないので、用途の幅が広がります。
一般向けの商品としては、錠剤タイプの哺乳瓶洗浄剤やハイプ洗浄剤に使われています。

また、中性で素材を傷め難いという特徴から木製品のカビ取り剤としても人気の商品で、檜製などの高級浴槽のカビ取りなどにも使用されます。

それぞれの特徴に合わせて用途が区別されますが、最も広い用途に使用できるのが「ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム」ではないでしょうか。